知らなかった!(7) リモコンの「巻戻し」!?

この「知らなかった!」シリーズは日常生活やラジオで聞いたことを書いていますが,今日は毎日使っているのに,今まで気づかなかったことです。私だけ?

今はもう使うことはないのですが,我が家には一台だけVHSのビデオデッキが残っています。
リモコンは見つからなかったのですが,これが本体の操作ボタン。

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「再生」「停止」の他に「巻戻し」「早送り」があります。

ここで気になるのは「巻き戻し」という言葉。
確かにVHS,ベータ,8ミリなど録画・再生媒体がテープの時代は文字どおり「巻き戻し」ていました

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オープンリール,カセットテープのような録音・再生媒体も「巻き戻し」と言っていました

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では,媒体がDVDやハードディスクになった現在ではどうなっているのか?

リモコンの操作盤を見てみましょう!

Panasonic
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「早戻し」になっている!

SONY も SHARP も!
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調べてみると,これはDVDデッキが普及した2000年ころからこうなっているそうなんですが,意識しなかったなあ。

テープ世代の私にとっては「巻き戻す」という言い方に慣れ親しんでいるので,「早戻し」には違和感があります。
では現代の中学生は? と思って聞いてみると・・・「巻き戻すっていうかなあ」と答えていました。全体にアンケートをとったわけではありませんが。

確かに日本語では「時間を巻き戻したい」なんて言い方が成立するような気がします。
おそらくそれは「ねじ式時計」ではねじを巻いたからではないでしょうか。

7maki4.jpg


さらに気になったので,「青空文庫」で「巻き戻す」という言葉がいつ使われているか調べてみると・・・

久生 十蘭 「あなたも私も」(1954年)

 ボーイが、電話だといいにきた。芳夫は、レコーダーのスイッチを切って、電話に立って行ったが、間もなく、ブラリとしたようすで戻ってきた。
「坂田でした。すぐ近くで電話をかけているらしい……忙しいから、十分ぐらいにしてくれというので、いいと言ってやりました」
 考える顔つきになって、
「坂田は牛車をひくのをやめて、このごろ、毎日、東京へ出てきている。なにがあったというのかな」
 由良が、あわてたように言った。
「レコーダー、レコーダー……巻枠を戻しておかなかったでしょう?」
「あっ、そうだった」
「もう来るわ。はやくなさいよ」
 芳夫は、脇卓のほうへ飛んで行ったが、巻き戻すひまもないうちに、うわさのひとは、ボーイに案内されて食堂へ入ってきた。
 あわてて椅子に戻ると、造花のカアネェションの間から顔をだしている、小さなマイクの頭を花の中へおしこみながら、由良のほうへ身体を倒して、
「巻枠は、折をみて巻き戻します……勘づかれるから、マイクのはいった花瓶を見つめないようにしてください」


1954年では家庭用ビデオカメラはないでしょう。「レコーダー」は「テープレコーダー」のことです。
ちなみに文章中の「巻枠」とは「リール」のことのようです。
ここでは「レコーダー」「リール」を「巻き戻す」という意味で使われています。


富田 倫生 「パソコン創世記」(1985年)
単純な繰り返し作業は 、コンピューターに任せるという健全な常識をすでに身につけていたブリックリンにとって 、時代の歯車を巻き戻して こうした悪習に染まることは耐えられなかった 。


ブルックリンというのは人名です。「時代の歯車を巻き戻す」という表現は,「歯車」は巻き戻すことができるものなので正しい比喩表現と思われます。


富田 倫生 「青空のリスタート」(1990年)
一九九〇年に誕生したマシンのことを書こうと思っているにもかかわらず、頭の中では六〇年代が駆け巡っている。これも「フィールド・オブ・ドリームズ」なんて映画を見たせいだ。おまけに原作の「シューレス・ジョー」を買ってきて、完全に二十年とちょいと、脳味噌に巻き戻しをかけられた。


ここに出てきた「マシン」とはPC(パソコン)のある機種のことです。
「脳味噌に巻き戻しをかけられた」という表現はユニークですが,1990年ならカセットテープもビデオテープもあります。文章に出てくる映画とは無関係に,「巻き戻す」という言い方は「過去を振り返る」という意味で使われています。


残念ながら青空文庫からは「時間を巻き戻す」という直接の表現は見つかりませんでした。
明治あたりの小説にも「時を巻き戻す」なんて見つかるかとも思ったのですが。

でも,日本語では過去にさかのぼることを「巻き戻す」と言う言い方はけっこう前からあったのではないかと思います。

それは,古来より日本では「絵巻」に代表されるように,巻物が多く描かれたからです。また,手紙や書状も巻物でした。
一度過ぎた部分を読み返したり見返すときに,巻き戻します。
7makimono.jpg

日本人のDNAには時間をさかのぼることを「巻き戻す」という観念が入り込んでいて,DVDやハードディスクになった今でも,「巻き戻す」という言い方がしっくりくるのかもしれません。
まあ,個人の解釈ですが。





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この記事へのコメント

2019年11月11日 09:01
おはようございます。

 大変興味深い考察でした。面白く読まさせていただきました。

 私の経験ですが、かなり若い方々でも「巻き戻す」、「時間を巻き戻す」という言葉を使っていました。もう日本語の普遍的な語彙として定着しているのではないかと思います。
 で、ウォークマンがすでにはるか昔となった今、i-podを使っている若い人たちは何と言っているのかと耳を澄ませてみると、やっぱり「巻き戻す」を使っているんですね(笑)。本人たちも何故なのか首をかしげているのですが。「チャプター・ジャンプ」とか、「チャプター・バック」と言った言葉の方がふさわしいようにも思えるのですが…、すでに媒体がシリーズ(直線的に並んだもの)ではなく、パラレルになっていますので。
2019年11月11日 10:11
おはようございます。
えーっ!早戻しなんて言いませんよね。絶対に巻戻しです!思わず我が家のリモコンを確認しましたが「早戻し」になっています。やっぱり…。
時間を巻き戻したいなぁ。そう思う今日この頃です。
2019年11月11日 11:35
おはようございます(#^.^#)
これだけ詳細に調べるリアルETさんのブログは
ビックリです!巻き戻すを普通に使っています。
それに世界遺産の高山寺の 鳥獣戯画の巻物を載せる
感覚は、素晴らしいです。

先生に学ばれる生徒さんが羨ましく思います。
2019年11月11日 21:48
あきあかねさん
こんばんは。今回は映像のハード中心に書きましたが,私がいつも持ち歩いて録音したラジオを聞いているMP3プレイヤーの説明書を見たら,やはり「早戻し」になっていました。業界は「早戻し」で統一していくんでしょうか。
本文では抜けてしまった部分ですが,英語では,「早戻し」「早送り」は back や forward を使うようです。
(例)Fast forward... Stop! Go back a little.
(早送りして。 あっストップ! 少し巻き戻して。)

やはり,私は「巻き戻す」がしっくりくるかな。
Fast forward. は見出し語になっているくらいの決まり文句です。
2019年11月12日 05:54
夢佳さん
おはようございます。
話に聞いて,自分で確認してそうだった時の驚きは2倍増しですね。自分が今まで気づかなかったことにも驚きます。
あー時間を巻き戻したことばかりです。
2019年11月12日 06:00
みなとさん
おはようございます。
やはり巻き戻すという言い方使いますよね。残念なのは漱石あたりで見つからないかなと思い,急に青空文庫を思い立ち検索をかけたのですがありませんでした。
ただ,私たちが時間を巻き戻したい,と言うときに何をイメージしているのでしょう。ねじ式時計でしょうか,巻物でしょうか? 私は時計の短針と長針のイメージかなあ。なんかドラえもんのタイムマシンのシーンに出てくるぐにゃりと曲がった時計のイメージです。