マネ作「フォリー・ベルジェールのバー」 (2)鏡の中の世界とジャポニスム

印象派の誕生につながる絵画を多く残したフランス・パリ生まれの画家,マネ最晩年の「フォリー・ベルジェールのバー」についてシリーズで書いています。(このシリーズの話のもとになっているのは東大の三浦篤教授の講演です。)
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この絵の構図は中央にこのミュージックホールのバーカウンターで働くバーメイドが印象的に配置されています。
「バーメイド」という呼び方は三浦教授の講演に従います。

この絵画は 96×130 cmの大きさで,それほど大作と言うほどの大きさではないのですが,大きく感じられるのは,このバーメイドの存在感からでしょうか。

その背景はミュージックホールの客席でしょうか?
確かにそうなのですが,ここに何かの縁(ふち)があります
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この縁は鏡の縁で,このバーメイドの後ろには大きな鏡があって,バーメイドの目の前の風景が鏡に映っているのです。

実はジャン=ルイ・フォランという画家にも同名の「フォリー・ベルジェールのバー」という名前の絵があります。
1878年の作なので,マネより4年前,つまりほぼ同時期の作品です。
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ここでもバーカウンターの後ろに大きな鏡があることがわかります。

この劇場は「遊歩回廊」と言われる,舞台を囲むように作られた長い回廊が人気を博したそうで,次のポスターからはその回廊やバーカウンター(赤丸)の様子をうかがうことができます。
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前回は左下の瓶のラベルにマネのサインがあることについて書きましたが,左上には不思議な足と緑の小さな靴が描かれています。
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よく見るとこの緑の靴はブランコの上に乗っています。
そう,これはこの劇場で人気を博していた空中ブランコが描かれているんです。
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観客は空中ブランコに注目しているのでしょうが,この絵の鑑賞者には2本の足しか見せてくれません。

これは浮世絵にもあった「裁ち落とし」の技法。
(「裁ち落ちし」という言葉には印刷業界用語もあり少し意味が違います。)

次の浮世絵は,歌川広重「東海道五十三次」の「原」。
「原」は東海道中一番と言われる富士見の名所。
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富士山を描いておきながら,その頂上が描かれていません。
つまり,描かないことで富士の高さを表現しています。

ここで空中ブランコ乗りは脚だけで抑えられ,絵画を見る人の心の中で自由にその姿を描くことができます。

三浦先生の講演会では浮世絵との関連について言及はありませんでしたが,この時期のパリの画家たちはみな浮世絵を通過儀礼のように取り入れています。

これはマネ作「エミール・ゾラの肖像」(1868年)。
背景に日本画,浮世絵(相撲絵)が描かれています。
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また,これもはマネ作「笛を吹く少年」(1866年)。
6Manet,_Edouard_-_Young_Flautist,_or_The_Fifer,_1866.jpg

ズボンの黒い線がちょうど浮世絵的な縁取りのようになっており,マネの平面的な彩色やモチーフを切り取る構図などが日本の浮世絵の影響を受けていると言われています。

さて,次回はいよいよ中心のバーメイドについて書きます。

彼女の後ろは鏡なのに,どこか背景に違和感を感じませんか?
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次回はその謎について解いてみたいと思います。

つづく




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この記事へのコメント

2019年12月27日 08:41
おはようございます。

 ネタばれになりそうだったので、前回は遠慮したのですが、この絵、構図というか、遠近法が少しおかしい、と感じます。実像と鏡像の位置がちょっと変です。本来なら”バーメイド”さんの実像と鏡像は重なるはずですが、作者は意図して構図を変えたのでしょうね。

 「笛を吹く少年」、高校生の時に模写したなあ。水彩でしたけど。背景の空気感がうまくいかなくて、3,4回描きなおしました。
2019年12月28日 06:54
あきあかねさん
おはようございます。
実像と鏡像の不思議についてはラジオで聞いたこと以外のことも含めて次回で書いてみました。真実はわかりませんが,この絵の魅力には違いありません。
笛を吹く少年は日本人には人気がありますね。マネにはいろいろなタッチの絵があって驚きます。