マネ作「フォリー・ベルジェールのバー」 (3)不思議な鏡像の謎

パリで生まれ育った画家,エドゥアール・マネの「フォリー・ベルジェールのバー」について書いてきましたが,この絵のもっとも不思議なところは,この構図,バーメイドの後ろにある鏡に映った像ではないでしょうか。
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バーメイドの後ろ姿の鏡像は本人から右に離れて描かれ,しかも謎の男性!
普通なら,鏡の手前にこの男性もまたいないとおかしいのではないか!?

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ラジオの三浦先生の話では,下絵のX線検査によると,マネは当初,バーメイドの後ろ姿をかなり本人寄りに描いていたそうですが,最終的に上の作品のように落ち着きました。

これは三浦先生がラジオで紹介していたマネの「温室にて」。
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よく見ると,ベンチの座る部分の水平線がゆがんでいます。
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マネにはこのように細部にはこだわらないところがあったそうです。
そして,バーメイドも最終的にあの位置に落ち着いた・・・?

やはり,気になるので,この鏡像の構図について,いくつかの本を参考にしてみましょう。

「マネは鏡を使うことで複雑な画面を作ると同時に,奥行きより絵の平面性を強調しようとしたとも考えられる。本作が発表された当時は賛否を巻き起こした。」
(「時空旅人別冊 大人が観たい印象派」三栄)

「『押し寄せた観客たちを仰天させ,彼らはこの絵画の幻影について途方に暮れながら批評をいいあっている。(略)』とユイスマンスは書いている。遠近法の歪みと現実感覚の欠如は,もちろん熟慮したうえでのことだろう。」
(「マネ 近代絵画の誕生」フランソワーズ・カシャン著)

「なぜ後ろ姿が右に映っているのか? 鏡の中で彼女の前に映っている紳士は,実際はどこに立っているのか? そんな矛盾も気にならず,絵に引き込まれてしまうのは,19世紀のパリの享楽的な雰囲気が生き生きと伝わってくるからでしょう。
 そう。マネは客観的な事実を写実的に描くよりも,自分の目で見て肌で感じた主観的な印象を,感覚的に伝えたかったのです。」

(「知識ゼロからの西洋絵画入門」山田五郎著)

「一見,都市風俗を描いただけにみえるが,鏡に中の像は実際とずれており,『絵画とは虚構である』という近代的なテーマが潜んでいることをうかがわせる。」
(「マネと印象派の巨匠たち」小学館)


あえてこの虚構性に意味を持たせた,と考えてよいのでしょうか。

でも,この記事を書くにあたっていろいろ調べていたら,最近,この絵やこの男性は虚構ではなく,鏡像は正しいものだという考えがあるようです。

以下のことは次のサイト参照しました。
http://www.getty.edu/art/exhibitions/manet_bar/looking_glass.html

最近の実験では,マネはこの位置から見た鏡像を描いたのではないかと言われているようです。
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そうすれば,手前の男性の実像部分が絵に入らなくても自然です。

実際に実験した結果の写真がこちら。
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絵の中ではこの紳士,バーメイドに何か話しかけているように描かれていますが,これだと,話しかけてもいなければ,見てもいないのです。
むしろ,男性が見ているのは鏡に映った先,絵で言えば左端の方。

左側には空中ブランコも足だけ描かれていますが,気になる人物が1人います。
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1人だけ白いドレスで際立っているのはマネが以前に描いたこともあるメリー・ローランではないかと言われています。
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ただ,この斜めから見た視点説は1つの説であり,三浦先生のX線写真の話からも真実はわかりません。
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実はこの絵は,実際にミュージックホールに行って描いたわけではありません。
このころマネは病気が悪化し,松葉杖の生活でした。

自分のアトリエにカウンターだけ再現し,バーメイドのモデル,シュゾンに来てもらって描いているのです。
背景の鏡像はマネの記憶の世界なのです。

それにしても,このモデルのシュゾン嬢,どうしてこのような表情なのでしょう?
みなさんにはどのように映っていますか?

最終回は,このバーメイドについて書きます。


つづく




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この記事へのコメント

2019年12月28日 09:18
おはようございます。

 「温室にて」の女性の左腕のフォルムも変ですよね。上腕部が長く、前腕部が極端に短いです。異なった角度から見て描いているように見えます。

 先月だったか、メディアテークに世界の子供たちが描いた絵が展示されていたのですが、子供たちの絵にはよくこういうものが見られますね。関心を持ったものを大きく描いたり、実際の物の色とは異なる色であったり、ひとつの対象を異なった複数の視点から見て描いたりと、正にImpressionismです。好きですね、私、こういうの。
 でも、意図してこういうのを描くのは難しいですし、勇気がいります。よほどの感性と技術がないと、絵そのもが破綻してしまいます。

 ちなみに、この子供たちの絵の中に私が欲しいと思った絵が二点ほどありました。色遣いがとても素敵で、構図もよくまとまっていました。下手な画家モドキの絵よりも、ずうっと良かった。
2019年12月28日 11:27
あきあかねさん
こんにちは。年の暮れは何かと忙しいですね。
マネには他にも影がおかしいものとかあるようですが,後のピカソのように画家は描きたいように描くのがプロ。マネは美術史上画期的なことを「草上の昼食」や「オランピア」で行ったりした革命家の一面もありました。マネは個展の招待状に「ありのままに描く,いいたいようにいわせる」と金色の文字で記したそうです。
最終回は言葉の選択が難しい題材なのですが,うまく読み取っていただけるよう書こうと思います。